▼米民主党 民主党候補者指名を辞退
ハリス氏の勝利は、副大統領候補の選択次第
米バイデン大統領は21日、11月の大統領選へ向けた選挙戦から撤退すると表明しました。バイデン氏は「大統領の職務を全うすることが党や国にとって最善の利益になる」と述べたものですが、これを受けバイデン氏が支持を表明し、民主党大統領候補の指名獲得をほぼ固めたハリス副大統領は「ドナルド・トランプのような人間を知り尽くしている。選挙戦で彼と堂々と戦う」と強調しました。
副大統領として、ハリス氏は大きな成果を上げることはできていません。特に国境の不法移民対策についてはほとんど進展が見られず、外国訪問時のスピーチは聞くに堪えないほどで非常に評価が低い状況でした。これらの理由から、私はハリス氏を否定的に捉えていました。しかし民主党大会の1カ月前、有力議員やペロシ氏などによりバイデン氏が撤退を決断する外堀を埋められ、カマラ・ハリス氏が唯一の選択肢として浮上しました。ハリス氏はカリフォルニアの検察出身で、州の司法長官も務めていました。これが、犯罪者として複数の有罪判決を受けているトランプ氏と対決する上で有利に働くと見られています。
一方、トランプ氏が副大統領候補に選んだバンス氏は、彼自身の意見と非常に近く、39歳という年齢の若さですが、彼らの極右的な姿勢や妊娠中絶反対などの主張は、多様性を重視するハリス氏とは対照的です。バイデン氏がいるときには全く目立たなかったハリス氏ですが、自分がチャンピオンだと意識すると、民衆に対して「これで戦おう。あなたはどう思う? 私はこう思う」と語りかける演説を行いました。これは「You’re Fired!」と相手を辱めることで注目を集めるトランプ氏とは違い、人々を引きつけて共感を呼ぶ演説スタイルです。副大統領時代には出過ぎた行動を控えていたのかもしれませんが、大統領候補として一人で行動することで、効果的な演説を行えることを証明しました。
ハリス氏の場合、マイノリティーや女性などを代表していますので、副大統領には男性で人気のある人物が適しているとされています。特に激戦区出身の人物が求められていますが、ハリス氏がカリフォルニア出身であるため、中西部や東部からの候補が望ましいと考えられています。現在の有力候補としては、ペンシルベニア州知事のジョシュ・シャピロ氏やケンタッキー州のベシア氏、ミシガン州のウィトマー氏などが挙げられています。身体検査で問題があるとされたカリフォルニア州知事のギャヴィン・ニューサム氏や、司法長官出身のノースカロライナ州知事のクーパー氏、ブティジェッジ氏やプリッカー氏は選考から外れると私は考えています。
そして今、最も注目されている副大統領候補はマーク・ケリー氏です。彼は警察官の両親の元に生まれ、海軍のパイロットとして5000時間の飛行任務をこなし、湾岸戦争にも参加しました。その後、彼と双子の兄弟は双子の特性を宇宙で調査するためNASAの宇宙飛行士となり、また50日間以上宇宙空間で任務を行い、エンデバー最後のミッションの指揮官を務めるなど、数々の功績を上げました。彼の妻である下院議員のギャビー・ギフォーズ氏が銃乱射事件で半身不随になってしまった際には、彼女を看病し、その献身的な姿勢が広く知られています。その後、彼はアリゾナ州の上院議員にもなるなど、アメリカ人にとって感動的な背景を持つ、非常に知名度の高い人物です。ハリス氏が大統領になれない場合でも、彼は今60歳ですので将来的に大統領候補として有力視されるでしょう。
また現在の世論調査ではバイデン氏とトランプ氏の両者は互角であると言われていますが、彼らの両方に不満を持つ30%ほどの有権者のほとんどは、ハリス氏に票を投じる可能性があります。マーク・ケリー氏は海外での演説なども確実にうまくやると期待されていることからも、今後の民主党大会でケリー氏を副大統領候補に選べばハリス氏勝利の可能性は急激に高まるでしょう。銃撃を逃れ、こぶしを振り上げて元気なところ見せたトランプ氏ですが、これで風向きが大きく変わってしまったようです。
▼米共和党 バンス上院議員の過去の発言に批判集まり
トランプ氏は相棒選びに失敗したか
アメリカ共和党のバンス上院議員は、過去の発言が問題視されています。彼は以前からペテン師のような問題のある人物で、彼はわずか3年前まではトランプ氏を厳しく批判していましたが、現在ではトランプ氏と同じ意見を表明しています。そのため、彼の一貫性のなさが批判を招いているようです。
さらにバンス氏の過去の発言には「チャイルドレス・キャット・レディー」という表現があります。これは子どもを持たない女性を軽蔑する言葉で、民主党の女性に対して使われました。この3年前の発言が今ネット上で広まり、バンス氏とトランプ氏のチケットにとって大きな問題となっています。トランプ氏と同じく人工妊娠中絶反対を公言しているバンス氏は女性有権者の反発を招き、選挙戦においてはトランプ氏の足を引っ張る恐れがあります。
現在、トランプ氏はバンス氏を選んだことを後悔していると伝えられています。共和党大会が終わった後では、バンス氏本人が辞退しない限りは、候補者の変更は難しい状況です。多様性を象徴するハリス氏と、単純な米白人男性で最悪なイメージを持つバンス氏との対比が強調される中で、さすがのトランプ氏もバンス氏を選んだことをどうにかできないかと周囲に相談を持ちかけているようです。しかし、私はこれでトランプ氏が負ける結果になるものよいのではないかと思っています。
ハリス氏については、能力不足との批判がありますが、現状の構図では彼女の存在が注目されています。副大統領候補に有能な人物を選び、その人物が次の大統領選に出馬するという戦略を示せば、民主党が圧勝する可能性は大いにあります。
▼移住したい国ランキング 「移住したい国」検索首位はカナダ
移住先選びには、言葉の壁が大きく影響
イギリスの引っ越し大手、ファースト・ムーブ・インターナショナルがまとめた調査結果によると、「移住したい国」の検索数トップはカナダ、2位はオーストラリア、3位はニュージーランドだったことが分かりました。オーストラリアは教育や医療の質が高く、家族との生活がしやすいと評価されたほか、ニュージーランドは自然環境やワーク・ライフ・バランスが充実していることなどが要因ということです。
英語が通じることが、これらの国々が選ばれた最大の理由です。また日本もトップ10入りしましたが、日本の観光地を訪れた多くの人が良い印象を持ったからですが、言葉の壁により実際に移住する人は少ないと思います。一般論として、イギリス、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドといった、英語圏の国々が移住先としては人気がありますが、シンガポールのような国は移住先としては選ばれないようです。
▼訪日外国人客 1~6月訪日客数、1778万人で過去最高
観光公害は増加しているが、上手な対応が必要
日本政府観光局が19日発表した1~6月の訪日客数は、1777万7200人で、同期として過去最高を更新したことが分かりました。国と地域別では韓国、中国、台湾、アメリカの順に多かったということで、このペースが続けば通年で3500万人となり、政府が2016年に掲げた年間4000万人の目標も視野に入ることになります。
私がJTBのガイドをしていた頃は季節によって訪日客数が大きく変動していましたが、今は年間を通じて一定のペースで安定しています。最近は、ピーク時に比べて減少していた韓国と中国からの訪日客数は回復傾向にあり、台湾やアメリカなどからは増加、そしてイスラム圏からも多く見られるようになっています。特に中国政府による日本への旅行制限が緩和されたようで、1カ月前に比べると中国系の訪日客が増えている印象です。多くの中国人が日本を訪れたいと考えており、代わりにタイに行っていた中国の人々も、再び日本を訪れるようになっています。ただし、日本の暑さにはかなり参っていると思いますね。
日本政府は訪日客数の目標を今は4000万人ではなく、6000万人としています。コロナ禍で一時的に訪日客数が激減しましたが、現在は順調に回復しています。しかし観光客の増加に伴い、観光公害も問題となっています。例えば北海道の美瑛では有名な木を撮影するために畑に侵入したり、江ノ電の踏切周辺の狭い道ではアニメのシーンを再現しようと危険な行為を行ったりしています。京都ではマナー違反や観光客増加による交通機関の混雑などが発生しています。中国人観光客などが自撮り棒を使用して、スペースを占有することも問題です。観光公害を減少させることは急務ですが、彼らは日本にお金を落としてくれる貴重な存在であるため、上手に対応していく必要があります。
—この記事は2024年7月28日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。