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KON1040「国内金融政策/農林中央金庫/ホンダ/日産自動車/野村総合研究所」

2024.07.05
2024年
KON1040「国内金融政策/農林中央金庫/ホンダ/日産自動車/野村総合研究所」

▼国内金融政策 国債の年限短期化を提言
個人、民間銀行などの国債保有率アップには、破綻リスクが伴う矛盾

財務省の有識者会議は21日、償還までの期間が短い国債の発行に重点を移すことなどを盛り込んだ提言をまとめました。これは日銀が14日、長期国債買い入れの減額を決定したのを受け、日銀に代わり民間銀行や個人、学校法人などが国債保有を増やせるようにするもので、財務省は今後、提言を国債の発行計画に反映する考えです。

これについては、私は無理なことだと思っています。今、日銀は日本国債の半分以上を保有しています。自国が発行した国債を中央銀行が買い入れるのは禁じ手と言われていますが、その禁じ手を使った理由は他が買わないからで、またアベクロの時代には、日銀は民間銀行などが持っていた国債をどんどん買い入れました。

主な家計金融資産の推移を見ると、日本国民は0.1%の金利しか付かなくても現金・預金を良しとして、国債は買っていません。このような状況で国債を買ってもらうには国債の金利を上げるなど、さまざまな優遇措置を行わなければならず、しかし国債の金利を上げれば日銀の含み損が膨らみます。このようなことを行えば自爆しかねない、インプロ―ジョンが起きると、私は以前から言っています。民間銀行や個人、学校法人が保有を増やすために国債に魅力を持たせれば発行費用が高くなり、それが破綻のきっかけとなる、そういった矛盾を抱えているのです。今の日本にとっては、大変シリアスな問題です。

▼農林中央金庫 外国債を10兆円規模売却へ
外国債券の損失には、とんでもない理由が隠れている?

農林中央金庫が2024年度中に、保有する米国債や欧州国債を10兆円以上売却する見通しが明らかになりました。運用収支悪化の原因となっている利回りの低い外国債券の損失を確定し、金利リスクを引き下げるものですが、金融庁は以前から農林中金に対し、外債への依存度の高さにリスクがあると指摘しており、農林中金は今後、幅広い資産への投資を検討するということです。

今の円安状況では、外国債を多く持っていれば表記上は非常にもうかっているはずであり、私にははっきりとした実態が見えないので、外国債を売却する理由が分かりません。農林中央金庫の有価証券評価損益の推移のグラフによると、債券は大変な評価損を出していますが、ストレートに債券を買っていれば落ちるはずはなく、何か情報が欠けていると思います。また市場資産運用割合を見ても、海外債券は米ドルとユーロによるものだと分かりますので、ここでロスが発生するとは考えられず、それなりの利回りもあるでしょうから本来であれば今は至福の状況であるはずです。それでもおかしくなっているというのであれば、クレジットや仕組債などといった変なものを買っており、そこで大きく損を出しているのかもしれません。今、世の中に出回っている情報だけでは原因を究明できませんが、とんでもないものを買っていたというようなことでもなければおかしいと私は思っています。

▼本田 総排気量50cc以下の「原付一種」生産終了へ
台湾だけはGDPの階段を上らない不思議

ホンダが総排気量50cc以下の原付一種の生産を20255月に終了することが分かりました。ホンダは1958年にスーパーカブを発売し、原付一種の普及をけん引してきましたが、25年に始まる排ガス規制に対応するには開発コストがかさむことや、近年は原付一種の販売が低迷していることから、生産終了を決定したということです。

スーパーカブが世界記録である生産累計1億台を達成したときのことを、私はよく覚えています。そば屋が出前機を付けて走っているバイクがスーパーカブで、今、東南アジアでバイクによる配達がはやっていますが、インドネシアなど東南アジアには二輪車の大きな需要があります。

ホンダは二輪車では世界一で、二輪および四輪事業の両方で5000億円もの営業利益を出しています。日本では昔、オートバイを造っている会社は200社もあり、競争の激しい時代を経て世界一のモーターバイク産業を生み出し、そのうちのスズキや川崎を含めた4社が世界化に成功しました。

皆さんご存じのように、1人当たりGDP1500ドルぐらいまでは自転車で、3000ドルぐらいがオートバイ、そして5000ドルを超えて1万ドルになると自動車、四輪車へという階段を昇っていきます。これをもとに考えると、インドはこれから二輪車の大ブームになると思いますので、私は非常に楽しみです。

しかし台湾はそれをはるかに超えているにもかかわらず、台中、台南の地域では雨でびしょぬれになっても、何があってもバイクです。私は以前、台湾の高雄に行ったときに「どうやったら地下鉄に乗ってもらえるのか」と市長から聞かれました。いくら地下鉄をつくって便利にしても、みんなはバイクを選び、雨が降っても2人乗りまでして乗っているのだそうです。台湾だけはGDPが幾つになってもバイクだという不思議な現象が起こっており、市長に相談されても私には名案は浮かびませんでした。自動車は駄目、自動車を持っていてもバイクで通うと、とにかく台湾の人はバイクなのです()

▼日産自動車 常州市工場を閉鎖
中国での劣勢は、中国ニーズに今の日本が合っていないから?

日産自動車は21日、中国江蘇省の工場を閉鎖すると発表しました。同工場は2020年に稼働し、生産能力は日産の中国全体のおよそ1割に当たる13万台ですが、中国勢の低価格攻勢に押され、日産を含めた日本勢の中国販売は低迷しており、各社が人員削減などの合理化を迫られている現状です。

かつて日産はトヨタと1位、2位を争っていましたが、今では見る影もありません。ゴーン氏が行った世界化は聞こえはいいものの、日産の弱体化を招きました。日産の国別新車販売台数は、欧州ではルノーと組みましたが、いまいちの結果となっています。またメキシコでは古くから生産していましたので、ある意味非常に重要な拠点となり、アメリカへの輸出も行っています。またロシアではアフトヴァースが入り込んでいましたが、ルノーと共に撤退に追い込まれました。中国での新車販売は次第に難しくなり、対するアメリカでは伸びています。今の中国は安い車や電気自動車が万能となり、そして補助金が出るということもあって、中国では日産を含めた日本勢は劣勢となっています。

▼野村総合研究所 野村総研、岐路の海外事業
知的産業の成功には、「成功の方程式」が必須

日経新聞は22日、「野村総研、岐路の海外事業」と題する記事を掲載しました。これは野村総研の20243月期決算で、北米やオーストラリアなどの海外事業が減収減益となったほか、米市場を開拓するため買収したIT企業、Core BTSが営業赤字に陥ったと紹介。これについて柳澤社長は金利上昇により企業の投資意欲が減退し、IT市場が低迷していると説明しましたが、野村が意識する米アクセンチュアは業績を伸ばしており、野村はコンサルティングなど上流工程の強化が課題としています。

日本によるコンサルティング事業や研究所などといった知的産業は、日本以外の国でこれまで成功したことはありません。私は長い間在籍していたマッキンゼーで成功の方程式を立ち上げ、現地で10年から15年ほどの実績を積んだ人間をセットで派遣するというやり方を、グローバル化の先頭に立って実行しており、自由な事業展開ができず、地元企業との合弁が必須のような国には、そもそも行きません。

野村総研は日本で大変成功しているのでお金はありますが、海外で成功する方程式を持っておらず、現地に人を派遣しても、その人材はそこで育った人ではないのでうまくいきません。Core BTSを買収したのはいいことですが、経営できる人がいないのです。それではどうするのかというと、日本の野村総研にお願いして、コンサルティングやシステム開発をやれるところを海外で見つけ、同じ日本のクライアントにしがみ付いていくという方法を取っています。つまり、海外に行ったところで日本企業そのものなのです。現地での成功の方程式を持っていなければ、いつまでやっても、どこまでやっても駄目だろうと私は思います。

—この記事は2024年6月30日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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