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KON1039「世界メディア大手/米グーグル/生成AIベンチャー/東レ/インド半導体産業」

2024.06.28
2024年
KON1039「世界メディア大手/米グーグル/生成AIベンチャー/東レ/インド半導体産業」

▼世界メディア大手 記事の対価めぐり綱引き
AI技術の向上には、運用についてのルール整備が必須

日経新聞は14日、「メディアとAI、記事の対価めぐり綱引き」と題する記事を掲載しました。これはアメリカのメディア大手ニューズ・コーポレーションが先月オープンAIと提携した一方、ニューヨーク・タイムズは昨年、著作権侵害でオープンAIとマイクロソフトを提訴したと紹介しています。メディア企業はかつてポータルサイトなどを経由した集客に期待し、テック企業に無料または安く記事を提供しましたが、その結果、消費者にニュースは無料という認識が広がり、経営基盤が揺らいだ経緯があり、生成AIが急速に進歩する現在、メディア企業があらためて経営判断を迫られているとしています。

グーグルなどはロボットが世界中のネットから情報を取り込み、検索すれば加工などはせずにそのまま一瞬にして表示しますが、今回のAIについては合成して提供されます。この合成されたものを分析すると、オリジナルは何で、それが何%使われているかが分かるようになってきており、著作権法のようなものでパーセンテージに応じて支払いが生じるという方向になっていくと考えられます。早くもウォール・ストリート・ジャーナルは、オープンAIに対しては25000万ドル以上とも報道されている金額を払えば好きなように使ってよいと表明し、そしてニューヨーク・タイムズはスタッフを抱えて、こんなに苦労して記事を書いているんだ、冗談じゃないと訴え、まだ決着はしていません。

最近は、文字情報だけでなく、画像や動画もAIで簡単に作成できる時代になりました。皆さんがこれを使えば、これまで多くの労力を使って表現してきたことが簡単にできるということです。とにかく人を説得するには絵で見せるのが一番で、私はこれまで言葉巧みに説明することを商売としてきたものの、築地の発展や横浜の将来など言葉だけでは難しい場合には大変な時間をかけてコンピューター・グラフィックスを使って説明してきました。今では何秒かでそれが実現できるなんてことに、私はがっくりきてしまいます。

▼米グーグル スマホ盗難防止の新機能提供
スマホ機能の盗難対策は、被害が深刻なブラジルで先行運用

アメリカのグーグルは11日、Androidのスマートフォン向けに、盗難対策の新機能を提供すると発表しました。これは端末が突然、自転車や車で移動するような盗難を示す動きをAIが検知すると、自動で端末の画面をロックし、データにアクセスをされたり初期化されたりするのを遅らせるということで、スマホの盗難被害が深刻なブラジルで先行運用し、その後、世界で提供するということです。

この機能のニーズは非常に高いと思いますが、何をもって盗難とするのかが難しいと思います。自分がスマホを持ったまま自動車に乗って移動したときに、端末画面がロックされてしまうと非常に困りますが、当然、自分のものであれば簡単に解除ができるようになっているとは思います。ブラジルではサンパウロからリオデジャネイロの距離をトラックで輸送すると、中身の8割がなくなってしまうとも言われていますので、今回の盗難対策の機能がブラジルからスタートしたのはよく分かります。

▼生成AIベンチャー 新たに200億円調達でユニコーンへ
新発想のAI技術は、4oを超えるか

生成AIのスタートアップ、サカナAIが月内にも、およそ200億円を調達することが分かりました。同社は米グーグル出身のAI研究者らが昨年7月に日本で創業、既存の小規模なAIモデルを組み合わせ、高性能なAIモデルをつくる独自技術が世界から注目を集めているもので、資金調達により企業評価額は11.25億ドル、およそ1800億円となり、異例の速さで日本からユニコーンが誕生することになります。

AIはある意味、情報のパクリです。今回の技術は小規模の既存AIのいくつかを組み合わせて高性能なAIをつくるという発想によるものです。より高性能なAIをつくるというコンセプトは面白いですが、実際にできたものが4oよりいいものなのか、それが知りたいところです。

▼東レ 半導体製造用フィルムの新製品開発
公害病を初期段階で止めるため、可及的速やかな対応を

東レは、半導体の製造工程で使われるフィルムの新製品を開発したと発表しました。これは半導体を最終製品に仕上げる後工程で半導体と金型の間にフィルムを挟み、金型が汚れるのを防ぐもので、従来のフィルムで有害性が指摘される有機フッ素化合物PFASを使わないほか、破れやしわが生じにくいため、生産性の低下が避けられるということです。

この開発に成功したのであれば、全ての製造の場で早く採用してほしいと思います。今、PFASは大変な問題であり、特に岡山県吉備中央町では急いで対処しなければいけません。PFASの除去に使われた活性炭が大量に放置され、長年かけて吸着したPFASが溶け出して雨などによって地下に染み込み、そして、ろ過がうまくなされなかったことで基準値の1000倍超のPFASが浄水場の水から検出されました。実はまだ、厚生労働省では日本全体でPFAS被害の全容を把握できていません。日本では過去に阿賀野川有機水銀中毒事件などの水俣病事件がありましたが、今の状況はこのような大変な事件の初期に当たるのではないかという感じがします。東レがこのような開発に成功したのは素晴らしいことですが、もっと大きなスケールで行うべきであり、そして何よりも全ての水道局がPFASなどの含有量を可及的速やかに調べなければなりません。政府はそういう通達を出してはいますが、その回答が今はまだ返ってきていないという状況です。

▼インド半導体産業 半導体装置、インドに商機
半導体工場は今後、インドへシフト

日経新聞は14日、「半導体装置、インドに商機」と題する記事を掲載しました。これは世界の半導体大手がインド進出を検討していると紹介しています。インドはこれまで水や電力などインフラ面の懸念が強く、製造を担う半導体工場の集積が進みませんでしたが、米中対立に伴う国際的な供給網の再編により、米アップルがiPhoneの生産拠点を中国からインドにシフトし、サプライヤーがインドに集積する動きが広がっているということです。

インドでスマホを作るのは難しいと言われており、今回のことからも分かるように、インドは大量生産を苦手としています。しかしアメリカは中国製の半導体を信用していないため、今後のことを考えるとインドでの製造は一つのオプションとなると考えています。もちろんアメリカは多額の補助金を出して、アメリカでの製造を望んでいますが、人が不足しているためなかなか進みません。今、中間的な位置付けとして最も安定しているのが日本であり、熊本は狂乱状態にあるものの土地も人もこれ以上は難しく、そして今度はインドに目が向けられました。現在の半導体工場は日本、台湾、米国、中国にありますが、今後はグジャラート州のアーメダバードなどに設立されることが予想され、グジャラート州はモディ氏のふるさとですので、インドへのシフトは確実なものに思えます。

—この記事は2024年6月23日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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