▼インド総選挙 与党連合が過半数超の293議席
今回の総選挙は、モディ氏の目を覚まさせたか
4月からインド各地で投票が行われたインド総選挙の開票が4日行われ、インド人民党を中心とする与党連合が過半数を超える293議席を獲得しました。これを受け、モディ首相は世界最大の民主主義国の勝利と述べましたが、インド人民党は大きく議席数を減らしたことから、モディ氏の求心力が低下する可能性もあります。
最大野党の国民会議派は議席の倍増に成功し、約200議席を獲得しました。しかし政権を取るまでには至らず、今の連立を維持できた場合には次の5年もモディ氏が首相を務めることになります。モディ氏にとっては政権を国民会議派に渡さないことが非常に重要だったため、彼にとってはある意味、今回の選挙は成功だと言えます。しかしモディ政権下で地域格差の拡大や、ヒンドゥー至上主義的行動が懸念されていました。
インドの主な経済指標によると、インフレ率は一時10%を超えましたが、今は5~6%で落ち着いています。また1人当たりGDPは2500ドルとなり、ようやくバイクの時代に入りました。一般的にGDPが2500~3000ドルであればバイクの時代、1万ドルを超えると車の時代になると言われています。そしてインドへの直接投資については、モディ氏が首相に就任して以降のどんどん増えました。ソフトウェア、サービス分野が直接投資の中心で、日本からの投資もかなり増えています。またインドの若年層の失業率は大学を出た人が最も高く、対して安い賃金で働く労働者は不足しています。この現象は中国も同様に起こっており、大卒以上の失業率が高くなっています。また昔のインドは国民のほとんどが貧困ラインにあると言われていましたが、南アジアの貧困ラインで生活する国民の比率のグラフによると、依然13%程度と決して少ない数ではありません。ちなみに、バングラデュとパキスタンは約5%です。
そして、インドの宗教別人口比のデータは非常に重要です。ヒンドゥー教徒が圧倒的に多くなっていますが、イスラム教徒は約14%と、人口14億人のうちの2億人ですから、ばかにならない数字であり、キリスト教徒も同様です。またシク教徒やアフラ・マズダーを神とするゾロアスター教徒もおり、タタ財閥のタタ氏もゾロアスター教を信仰しています。ちなみにパキスタンの国民のほとんどがイスラム教徒で、インドネシアも2億を超えるムスリムがいるイスラム教国、そして、その次がインドです。インドはヒンドゥー教国だとしていたモディ氏に、ムスリムが投票しなかったのは当たり前です。またモディ氏は北西を中心に考えて政治を行ってきたため、支持率に地域性が反映されます。ヒンドゥー教徒以外をばかにしてきたことがモディ氏の問題であり、有頂天になって独裁化へと進もうとしていたモディ氏の目を覚まさせたという意味では、今回の選挙ではインドの民主主義が機能したと私は捉えています。
▼メキシコ大統領選 与党・国家再生運動のシェインバウム氏が勝利
インテリの大統領に期待するのは、経済面での働き
メキシコ大統領選の投開票が2日行われ、左派与党、国家再生運動のクラウディア・シェインバウム前メキシコシティ市長が勝利しました。選挙戦では麻薬カルテルの抗争で悪化した治安が争点となりましたが、シェインバウム氏は犯罪の根本に対処する政策や、格差是正など現政権の路線を継続する方針を訴え、支持を広げた形です。
今回は前大統領ロペス・オブラドールをサポートしてきたシェインバウム氏が順調に勝利して、大統領選挙が終わりました。メキシコはカトリック教徒が多い国で、日本とは非常に近しい関係にあります。近年のメキシコ大統領は、カルデロン氏からニエト氏へ、そしてメキシコ市長経験者のオブラドール氏、そして同じく市長経験者であり科学者のクラウディア・シェインバウム氏へと引き継がれました。シェインバウム氏は祖父母がユダヤ系移民で、ノーベル平和賞をグループで受賞しているインテリです。こういったことから世界との折り合いをつけるのはうまいのではないかと期待されていますが、なぜか株価はいきなり下がってしまいました。インテリではあるものの、左派的な経済政策への市場の懐疑ではないかと思われているようです。
メキシコの主な経済指標を見ると、常に問題にとなるインフレ率は、今はまあまあのところまでは来ており、1人当たりGDPでは1万ドルを超えています。そしてメキシコの輸出相手国はほとんどがアメリカで、輸出品目についてはメキシコ国内で製造した車をアメリカに輸出し、そして他の製品についても同様です。また日本では畜産物や農産物などをメキシコから輸入しています。
▼朝鮮半島情勢 南北軍事合意を全面停止
政権によって姿勢が変わる韓国は、今は北を敵と見なす
韓国大統領府は3日、北朝鮮との緊張緩和を目指し、2018年に締結した南北軍事合意を全面停止すると表明しました。両国は軍事境界線近くの非武装地帯の外側に軍事活動を控える地域を設けていましたが、昨年末以降、北朝鮮が相次ぎ軍事偵察衛星を打ち上げたほか、ごみなどをくくり付けた風船を韓国に散布するなど挑発行為を繰り返しており、韓国側は十分かつ即時の措置を取る体制を整えるということです。
韓国は政権が変わるごとに北朝鮮への態度を変えるため、韓国の態度は非常に不安定です。前政権の文在寅氏は北朝鮮とGreater Koreaをつくり上げ、一緒に強くなろうという方針でしたが、今の韓国は北朝鮮を敵と見なし、北朝鮮も韓国との戦いに備えることを明言しています。そして今、北朝鮮は12発の短距離ミサイルを打ち上げて韓国を威嚇し、対する韓国は軍事合意を全面的に停止して戦いに備える姿勢を見せ、北と南の対立はさらに深まっています。
▼北朝鮮情勢 日本アニメ制作で中国下請け会社が北朝鮮に発注
北朝鮮は、日米のアニメ文化にも忍び込む
アメリカの北朝鮮分析サイト、38ノースは先月22日、日本やアメリカのアニメ制作に北朝鮮のアニメーターが関与した疑いがあることを明らかにしました。北朝鮮が管理していたと見られるクラウドサーバーに関連ファイルなどが保管されていたということで、同アニメの制作委員会は事実関係について調査中としています。
北朝鮮が日本アニメの制作に関係しているのが本当であれば、中国経由で下請けをしているものと考えられます。またニコニコサービスなどKADOKAWAグループのウェブサイトが8日のサイバー攻撃により、現在サービスを停止しています。北朝鮮は今までにもサイバー攻撃を外貨獲得手段などで用いており、動向を注視する必要があります。
—この記事は2024年6月9日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。