▼欧州AI規制 AI規制法案を承認、成立。
戦争犯罪に対する対策を、真剣に考える時期に来ている。
欧州議会が3月に可決したAI規制法案について、EU加盟国の閣僚理事会が先月21日に承認し、成立しました。これはAIのリスクを容認できない、高いなどの4段階に分け、段階ごとに開発側、利用側の双方に義務を課すもので、最も重い違反には制裁金として、およそ60億円か、企業の年間世界売上高の7%の支払いを課すということです。
ヨーロッパではAIの使用や開発の部分で遅れているため、規制で縛り、開発でもうけたところから制裁金を取ってやろうとしています。これはヨーロッパの伝統的手段で、そしてAIに対する方向性も見えてきました。しかし子どもや教育分野で、というのはもちろんですが、最大のAIリスクとして考えなければならないのは、スパイや戦争分野についてです。戦争犯罪にAIが使われるとなれば、誰がそれを感知し、罰則はどのようなものにするのか、マイクロソフトのような提供者側が使用自体を止めるのかなど、企業行動の歯止めの部分を真剣に考えなければならないと思います。
▼米マイクロソフト 新ブランド「Copilot+PC」発表
エッジAIの実現は、世の中を大きく変える
米マイクロソフトは先月20日、AIに特化したパソコンの新ブランド「Copilot+PC」を発表しました。これはAIを端末上で動かす「エッジAI」を採用し、ネット接続がなくてもAI機能を扱えるようにしたほか、CPUもこれまでのインテル製ではなく省エネルギー性能に優れたイギリスのアームの設計によるクアルコム製を採用したということです。
巨大なエネルギー、電源、そしてコンピューター能力を使って行っているのがLarge Language Modelによる今のAIで、対する今回のエッジAIは各パソコン、そしてゆくゆくはスマホなどの中で行われるAI処理システムです。まだ限界はあるでしょうが、エッジで実現できるとなると、世の中は少し変わると思います。インテル社には厳しい状況ですが、この方向性が本当に実施されるならば、従来の金持ちだけが独占的に提供することにはならない可能性が出てきますし、多くの人にとってはエッジで間に合ってしまうことにもなり、ぜひ私はこの動きを進めてもらいたいと思います。
▼米エヌビディア 売上高約4兆800億円
世界に影響を与えるほどの、独り勝ち状態
米エヌビディアが先月22日に発表した2024年2-4月期決算は、売上高が前年同期比3.6倍のおよそ4兆800億円、純利益が同7.3倍のおよそ2兆3300億円だったことが分かりました。
Graphics Processing Unit、GPUにおいては、エヌビディアの独り勝ちですが、ここまでもうかってしまうと、あまり面白くありません。エヌビディアの売上高、純利益共にとんでもない数字をたたき出し、アメリカの株式市場もかなり跳ね上がっています。アメリカで使いようがないお金は日本やその他の国にも入っていき、エヌビディアのおこぼれで日本はじめ各国にも影響をおよぼしています。この先、かなりの揺り戻しはあるかとは思いますが、今はまさにエヌビディアの独り勝ちの状態です。またクアルコムのチップがうまくいけば、GPUではなくCPUの世界ではありますが、クアルコムもおこぼれを頂戴するのではないかと思います。
▼米USスチール 米クリーブランド・クリフスを批判
日鉄の買収に政治的批判は無用、さらなる買収を目指すべき
アメリカの鉄鋼大手、USスチールは先月21日、同業の米クリーブランド・クリフスが誤情報を流しているとする書簡を発表しました。クリフスのゴンカルベスCEOが日本製鉄による買収に批判的な発言を繰り返しているのを受けたものですが、バイデン大統領やトランプ氏も買収に批判的なことから、市場では買収が不成立に終わるとの見解が強まっています。
日本製鉄の売上高は約8兆円で、USスチールやクリーブランド・クリフスは約200億ドルです。そして純利益についても、日本製鉄とこの2社とでは大きな差があります。また時価総額においても日本製鉄は約3兆円のところ、この2社はそれぞれ80億ドル程度です。私が日本製鉄の立場であれば、USスチール、クリフス両方の買収を考えます。USスチールが日本製鉄に買収されれば自社が劣位になるので嫌だと、クリフスCEOのゴンカルベス氏は批判的な発言を繰り返すのですから、日本製鉄は黙らせるためにも両方を買えばいいのです。USスチールは日本製鉄に買収されることを望み、話し合いも済んでいるのですから、もちろんバイデン氏やトランプ氏が政治問題化する理由もありません。
「製鉄会社別の粗鋼生産能力」のグラフを見ると、世界は中国企業やルクセンブルクのアルセロール・ミタルなどに向いており、3位の鞍山も相当な実績を上げています。かつて日本製鉄が世界トップと言われていましたが、今では影も形もありません。しかしここで日本製鉄が、クリフスとUSスチールを買収すれば、かろうじてアルセロール・ミタルを抜いて2位に躍り出ます。この業界はアルセロール・ミタルのように世界中で買収を重ねてきた歴史があるので、何もおかしいことではありません。そして中国には100ほどの小規模な鉄鋼会社があり、これからも買収、吸収合併が繰り返されるでしょうから、日本製鉄は早めにこの2社を買収すべきです。今うるさいのはクリフスだけですが、ニューコアという会社も何かしら文句を言い始める可能性はあります。私はそこも買収してしまえばどうかと思いますが、さすがにそれは難しいかもしれません。クリフスとUSスチールの買収は大した重みにはなりませんので、それで2位になれるというのであれば、クリフスを黙らせることもできますし、私はとてもいい方法だと思います。
▼米カーライル・グループ 日本KFC HDを買収
売り先を選ばぬ売却は、資産効率の追求とファーストフード分野の成長に見限りか
アメリカの投資ファンド、カーライル・グループは先月20日、日本KFC HDを買収すると発表しました。TOBのほか、35%を保有する三菱商事などから株式を買い取り、9月をめどに完全子会社化する方針で、これによりカーライルはケンタッキーフライドチキンなどの店舗網拡大やデジタル化を推進する考えです。
日本ケンタッキーフライドチキン(現日本KFCホールディングス)は三菱商事が米KFCなどと共同で設立し、大河原毅氏のような名経営者で知られた会社で、このたび日本KFC HDは日本向けファンドを組んでいるカーライルに買収されるということです。資産効率の追求や成長の限界を考慮し、売却先はどこでもよかったということだと思います。
—この記事は2024年6月2日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。