▼能登半島地震 石川県志賀町で震度7の地震発生
甚大な被害を受けた能登の状況から学ぶべき多くのこと
石川県志賀町で1月1日午後4時10分ごろ、震度7の地震が発生し、日本海側の沿岸部に津波が到達したほか、大きな揺れで建物の倒壊が相次ぎ、石川県内でこれまでに128人が死亡、また輪島市では大規模な火災も発生し、店舗や住宅など、およそ200棟以上が焼失しています。
われわれの番組をご覧いただいている方には石川県や富山県の方も多く、無事であることを心から祈っています。私は能登半島とは非常に縁があり、バイクで何度も訪れるほど大好きな場所です。まず今回のニュースを見て思ったのは、正月なので帰省している人が多く、おせち料理を食べて、1杯飲んで、家族みんなでくつろいでいた最中に起こった地震だっただろうということで、犠牲者は石川県に在住ではない人も多く含まれていると思います。行方不明者は177人と発表されていますが、恐らく亡くなっている可能性が高いでしょうから、300人近い人たちが犠牲となっていると考えられます。
またマグニチュードから考えると、今回の地震の規模は阪神・淡路大震災よりも若干大きいものでした。地震発生時にはNHKのアナウンサーが「逃げてください」と叫んで大騒ぎをしたと批判されていますが、私はそのアナウンサーの行動は正しいと思っています。津波の発生は地震発生直後で、東日本大震災よりもかなり早く、私はよく予測できたものだと思います。
以前より私は北陸電力には志賀原発を経営する力がないと、反対の意見を持っていました。そして今回、私の危惧は全て現実となりました。まず、活断層への懸念です。昨日、志賀町で起きた震度6と観測された地震は、地元ではそれほどの揺れはなかったようですが、震源が観測点に非常に近かったために大きな揺れを計測したのではと気象庁は発表しています。
そして私が志賀原発を見てもう一つの危惧として思ったこと、それは防波堤が不十分ではないかとの懸念です。ちなみに東京電力の福島原発や女川原発の周辺には、10メートル以上の防波堤がありました。そして震災当時、女川原発は15メートルの防波堤があったために津波の被害からは免れました。もともと私は、活断層の問題はもちろん、津波の恐れからも志賀原発には反対でした。あの地域では津波が起こらないと言われていたようですが、今回、能登半島の両側で津波が起こっています。つまり、北陸電力の主張が間違っていたということです。
昨年、PRESIDENT エグゼクティブセミナーにWOTAの前田氏が登壇しました。水のないところで水を作る「小さな水再生システム」を開発・実現し、アフリカなど水に困る地域を救っている非常に志の高い人物ですが、私は彼の話を聞いて、まだ32歳の若者なのに大したものだと感心していました。昨日、私がオーストラリアから帰国して見たニュースでは、6日ぶりにシャワーを浴びたと喜ぶ人々が映っていました。彼らの後ろにある施設にはWOTAと書かれており、前田氏の技術が被災地の人々を救っていることを知りました。今朝、私が彼に電話をすると、彼はまだ能登におりましたので、私はその施設を一つ寄付するので本当に必要とするところに置いてあげてくれと伝えました。さらに彼らは手洗いや洗面などの施設も提供できるということでしたので、僕は三つ買ってあげるから適当なところで役立ててくれと言いました。彼は自分たちの技術が日本で生かされるとは、想像していなかったことでしょう。彼は今も、現地の非常に不便な環境での立ち上げを手伝っていると思います。一刻も早く、彼らの技術で困っている多くの人々を助けてくれることを願っています。
▼羽田空港事故 日本航空機と海保機が衝突、炎上
勘違いが絶対に起こらない英語の使い方が必要である
羽田空港で2日午後5時50分ごろ、着陸した日本航空の旅客機が滑走路で海上保安庁の航空機と衝突し、炎上しました。旅客機の乗員・乗客379人は全員が機体から脱出しましたが、海保機の乗員6人のうち5人が死亡、これまでの調査で海保機の滑走路侵入に管制官が気付かなかったことや、海保機の機長が管制官からの指示を取り違えた可能性が明らかになっています。
事故というのは、いくつもの問題が重なって起きるのが典型となっていますが、この事故においても三つの問題が重なっていると考えられます。
一つ目は、「英語」にあると私は思います。通常、航空機の管制は世界的に英語で行われており、日本人同士であっても英語で話されます。今回の管制官と海保側との交信記録を英語で聞くと、私の主張を理解していただけるはずです。この事故の場合、海保の方が勘違いした理由は「ナンバーワン」という言葉にあると思います。導入路の先頭、1番目であるという意味で管制官が使った「ナンバーワン」という言葉を、海保の方は「次はおまえだ」という意味に頭の中で変換してしまったのだと思います。しかし、「ナンバーワン」は不要な英語でした。そこでとどまるようにという意味で、「ステイ」という言葉を使うべきでした。導入路で待っているときには順番を変えることはできないので、「ナンバーワン」も「ナンバーツー」もありません。「ナンバーワン」と聞けば、1番に出発できると考えてしまう恐れがあるのです。ここで「ナンバーワン」を使うのは非常に悪い習慣で、やめるべきです。
そして、二つ目の問題です。衝突の1分前に海保機は滑走路に向けて動き、約40秒前に滑走路上で停止、エンジンを吹かして全力疾走しようとしていたときに、後ろからJAL機がぶつかりました。海保機は、本気で自分が先にテイクオフしなければいけないと考えていたはずです。対するJAL機は着陸であったので、通常はオートパイロットの状態となり、自分で操縦はしていなかったと思います。手動であれば必ず滑走路の上を見ているはずで、海保機に気付いたと思います。機長が40秒も滑走路に停止していた海保機に気付かなかったのは、オートパイロットによるものだと言えます。過去にも今回と同じエアバスで起きたタイ国際航空機事故、また名古屋空港での中華航空機事故も似たような状況でした。オートパイロット状態となっても、手動であるのと同じように、機長はしっかりと見ておかなければいけない、サボってはいけないのです。
三つ目の問題は、警告灯がともっていたことに管制官が気付かなかったことです。警告灯だけではなく、音が鳴るようにすべきでした。
しかし、これら3点の中で最も問題なのは、やはり「英語」だと私は思います。日本人同士であっても英語を使わなければいけないのは仕方のないことですが、英語の中身をしっかりと研究して、誤解のない使い方ができるようにしなければいけません。
「空港設備としてのSTBL、誤侵入防止装置や進入角指示灯、または管制塔では滑走路占有監視支援機能など、滑走路侵入防止の機能はあるものの、これらはあくまで補助機能であり、最後は管制官の視認になっている。今回の事故は、過密スケジュールに現行体制では対応できていなかったという結果ではないか」という質問をいただいています。おっしゃるように、ランプだけではなく、アラーム音を鳴らす必要がありました。そして6分に4機の離発着といった過密スケジュールそのものに問題があることも、そのとおりです。しかし余裕があれば完全に防げた事故なのかというと、そうではありません。今回の事故については、海保の方の完全な勘違いであり、管制官はステイなどといった誤解をさせない英語を用いるべきでした。1日に2~3回も離発着するような民間のパイロットは慣れているでしょうが、海保のかたがたはそうではありません。この英語の見直しについては今後、国民全体で注目していく必要があると私は思います。
しかしながら、その後が本当に素晴らしかった。この事故で機体に火がついたとき、CAが迅速に開放可能なドアを確認し合って三つのドアを開け、乗客を冷静に誘導して脱出させたのは実に見事でした。また自分の荷物を持って出ようとした乗客に対して、「荷物は置いて」という声も映像に残っています。さらに素晴らしいのは、私が先ほどサボっていたと指摘した機長自らが、逃げ遅れた乗客がいないか、座席を1列ごとに確認し、とどまっていた乗客数人を誘導して自分が最後に脱出したそうです。そういう行いについては、機長、あっぱれです。
—この記事は2024年1月7日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。