▼米プリツカー賞 今年の受賞者は山本理顕氏
今年の受賞により日本の受賞者は9名、世界で一番に
アメリカ・プリツカー賞を主催するハイアット財団は5日、今年の受賞者に日本の建築家、山本理顕氏を選出したと発表しました。日本人が受賞するのは安藤忠雄氏や磯崎新氏などに続く9人目で、これについて財団は、山本氏は公の場と私的空間の境界を巧妙にぼやけさせ、コミュニティーの活性化に貢献したと評価しました。
山本氏の代表作には横須賀美術館、チューリヒ空港複合商業施設などがあります。そして公立はこだて未来大学は、韓国ソウルの京畿道城南市板橋(ソンナムシ・パンギョ)住宅団地に近いものがあり、コミュニティーであるからとガラス張りが採用されているようです。板橋のタウンハウスは玄関扉に透明ガラスが使用されるなど、プライベートが丸見えだ、私生活が侵害されると非難されて初期段階で売れ残りが出ましたが、山本氏の受賞により、これが世界の標準だと韓国国内で見直されています。しかし安藤忠雄氏の古い設計の中には、傘を差さなければトイレにも行けないという有名な建物もあるので、どう感じるかは国民性も大いに関係するでしょう。
プリツカー賞を受賞した日本人は、アメリカの8名を上回る9名で、世界一の数となりました。われわれに近いところでは私の墓石の設計を頼んだ安藤忠雄氏、ボンド大学を設計した磯崎新氏、ご自宅にも何度か訪れた丹下健三氏など、親しみ、温かみを感じる方ばかりです。山本氏は私でよかったのかと驚いているようですが、私はとてもうれしい。山本さん、プリツカー賞受賞、本当におめでとうございます。
▼伊藤若冲 若冲の新たな絵巻を発見
価値ある晩年の秀作、新たに発見される
京都市の福田美術館は5日、江戸時代の絵師で、奇想の画家として知られる伊藤若冲の絵巻が新たに見つかったと発表しました。この絵巻は、これまで存在を知られていませんでしたが、オークション会社を経て、欧州の個人から福田美術館が去年8月に購入したもので、署名や印から本人が描いたものと判断したほか、署名には年齢が記され、若冲が数えで76歳の1791年に描いたものだということです。
今回見つかった『果蔬図鑑(かそずかん)』は、約8メートルの巻物で、細かい部分まで一つずつ丁寧に描かれた若冲らしさあふれる秀作です。かつて若冲は京都・相国寺に居候をしており、庭の鳥が描かれたものなど、相国寺にはかなりの数の秀作が残っています。また中国の絵を模写した若い頃の作品も数多く残っており、大変な研究家、勉強家であったことが分かります。
若冲の絵は現在、大変な高値となっています。幕末期には欧州の人々が本当の価値を知らぬまま勝手に若冲の作品を日本から持ち出しており、今回の巻物も個人所有であったために、本物か否かの判定を行った上で福田美術館が買い取りました。私の友人が随分前に若冲の絵を数千万円で購入しましたが、今では数億円の価値があるそうです。
若冲は自然観察の能力に優れ、私が知る限りでは鶏の絵が最も多いようですが、鳥やその他いろいろ、そして見たことのない象の絵も描いています。秋から『果蔬図鑑』が福田美術館で展示されるようですので、私も訪れたいと思います。
▼大学特許 日米有力大学の特許収入格差約50倍
特許をビジネスにつなげるシステム構築が急務
日経新聞が日米の有力大学の特許取得数などを分析したところ、2017年から21年の特許の取得数は、アメリカが日本のおよそ1.8倍だったのに対し、特許から得る収入ではアメリカが日本のおよそ50倍に達したことが分かりました。日本の大学には研究成果をビジネスにつなげる専門組織や人材が乏しく、せっかくの種を開花できないことなどが要因だとしています。
私は非常に残念に思います。『yet2.com』というサイトが、特許をビジネスにつなげる出会いの場として知られていますが、日本でもこのようなシステムをもう少し活用すべきだと思います。私が在籍していたMITは惜しみなくアドバイスをくれたり、手を貸してくれる環境でしたが、日本の大学では鉛筆1本も売ったことがない教員が経営学を教えるなど、ビジネスへのつながりは期待できません。私はホテルを経営していますので、彼らよりも私のほうが教える能力が高い自信はありますね(笑)
日本政府は大学に対し、ユニコーンが少ない、もっとビジネスにつなげろと10兆円でも何でも突っ込んで、その利回りで何とかしろと言っているようですが、アメリカでさえ特許収入が1178億円ですので、全くおかしい話です。片付けるべきはビジネスにつなげる仕掛けの部分をどうするか、そこをまずは早く進めていかなければいけません。
▼アジア高級住宅市場 アジアリゾートで高級住宅活況
アジアリゾートの高級化に、日本は含まれず
日経新聞は1日、「アジアリゾートで高級住宅活況」と題する記事を掲載しました。タイ南部プーケットやインドネシアのバリなどで、東南アジアの財閥やホテル大手が、高級住宅の開発に乗り出しています。新型コロナ禍を経て、中国、ロシアなどの富裕層がリゾート地で長期滞在する需要が高まっているのを受けたものですが、こうした地域では不動産バブルの兆しも見られ、値崩れのリスクもはらむとしています。
バリ島やサムイ島などのアジアのリゾート地では、高級住宅の開発が進んでいます。今は淡路島ぐらいの大きさの土地に100以上の高級ホテルが建ち並び、そのうち20軒ほどは1泊16万から50万といった超高級ホテルです。中国人は親子3代といった家族総出で、それら高級ホテルに滞在しているようですが、日本にはそういった高級リゾートはほとんどなく、沖縄本島や石垣島にはホテル・ハレクラニなどがいくつかできましたが、他には見当たりません。
例えばプーケットなどには中国やシンガポールの富裕層が購入した高級住宅があり、それら住宅をホテルのように利用できるサービスを提供する会社があります。食事の用意からバーベキューの手配、敷地内の巨大プールの設備整備などリゾートを楽しむサービスが提供されています。また、使っていない間の住宅をマネージする会社もあります。私の友人がそういった住宅をいくつか所有していますので、そこを借りてリゾートを楽しんだこともあります。
アジア、特にプーケットやサムイ島、モルディブ、バリ島は、日本とは全く違います。高級住宅、ホテルがもっと開発されるようになれば、アジアの富裕層は日本でバケーションを楽しむことになるのでしょうが、今の日本には無理な話です。ロシアの富裕層は、国を捨ててリゾートへという人が非常に多く、今のドバイにはそういった人が多く集まっています。
▼中国アリババ集団 銀泰(インタイム)売却を検討
eコマースの覇者でさえも、リアル店舗は難しい?
ブルームバーグが報じたところによりますと、中国アリババ集団が百貨店部門、銀泰商業集団(インタイム・リテール・グループ)の売却を検討していることが分かりました。また去年9月にアリババの会長に就任した蔡崇信(ジョセフ・ツァイ)氏は7日、旧来型の小売り事業はアリババにとって中核事業ではなく、撤退するのが合理的として、小売り以外の非中核資産も売却を進める考えを示しました。
Amazonでもリアル店舗が必要だと試行錯誤の最中ですが、うまくいっているとは決して言えません。リアル店舗とeコマースの差が開き過ぎたのがその理由で、アリババはインタイムを買収したものの早くも今、手放す検討を始めたということです。
—この記事は2024年3月10日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。