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経営人材は、リベラルアーツから何を学ぶべきか

経営人材は、リベラルアーツから何を学ぶべきか

~高橋俊介氏へ聞く「なぜ今リベラルアーツなのか」その理由~

テクノロジーの急速な進展により、産業構造やビジネスモデルがかつてないスピードで変化しています。さらに「就業意識の変化」や「ワークスタイルバランスの重視」など働く側の変化によって企業の経営、なかでも人や組織に関するさまざまな施策や考え方が大きな変革を迫られています。 このような環境下で、ビジネスパーソンが「リベラルアーツ」ともいうべき社会科学や自然科学、人文科学を学ぶ必要性について、「リベラルアーツ六観講座」の講座長である高橋俊介氏に語っていただきました。

社交力の基盤として

「なぜ今、リベラルアーツか」という問いに対する一番わかりやすい理由として、中根千枝さんの著書『タテ社会の人間関係』でも考察されている通り、日本のエグゼクティブは社交下手であるという現実があります。この背景には、単に遠慮がちであるといった日本人の傾向だけでなく、それぞれが「語るべきもの」を確立していないという憂慮すべき事実もあると思われます。

特にグローバル環境において、外国のエグゼクティブといった方々と議論する時にしっかりとした教養がないと、まともな話ができずに恥をかいてしまいます。日本では優秀な人は実務叩き上げで、どんどん上の立場に昇り、管理職になり、最終的には経営者になるというタテ社会の性質がありますが、その過程でしかるべき教養教育を受けていなかったことが、トップに昇り詰めた時、露呈するのです。

海外企業買収等により自社がグローバル化するにあたり、世界的な視点で話せないとまずい、という問題意識が当事者にもあるため、その流れでリベラルアーツの必要性が出てくるのです。リベラルアーツを学ぶことで、まずは客観的なファクトを理解し、その上で仮説検証を経たうえで、文化背景の全く違う他者を説得するに足る「自論」が構築され、それが社交力の基盤となるのです。これが一番目の理由です。

過小評価されてきた「感覚機能」の補完

ユングの心理学では、「感覚、直感、思考、感情」という四つの機能の話があります。「感覚」は五感の感覚をそのまま受け取るもの、「直観」は意味合いを引き出す、「思考」はロジカルシンキング、「感情」は人の主観的な判断に関わる機能です。

これらのうち、ある一つの機能がおろそかにされ過ぎた場合、神経症など現実生活に支障をきたす場合があると言われています。現代の仕事は分業化していて、ビジネスの特性として脳のほんの一部分ばかりを使うようになっています。

旧来の「営業は人間力」等と言われていた時代なら、「感情」をもっと使っていたかもしれませんが、情報テクノロジーが進化した現代の典型的な仕事では、最初は「思考」ばかり使っていますよね。もう少し突っ込んで、本質的に考えたい時、「直感」が重要となってきて、これを使うくらいでしょうか。しかし、人類の歴史を大きく遡って考えてみると、例えば狩猟採集時代には、「感覚」機能まで含めて、フルにインテグレートして使ってきたであろうことが容易に想像できます。

本来、人間に備わっているこの機能まで、きちんと使わないと、つまり脳の発達が偏ると、経営者としての全体的で創造的な判断が、難しくなってくるのではないかという懸念があります。リベラルアーツのなかでもアート系は、論理的思考の積み上げでは使わない機能を補完するのに効果的であるため、近年注目を浴びてきているとも言えます。これがリベラルアーツをお薦めする二番目の理由です。

思考の「深み」と「引き出し」の獲得

現代のような変化の激しい時代においては、ある状況下で習得した専門知識やノウハウ・思考方法が、環境が変わると通用しなくなり、学び直しが求められる場面が多々あるでしょう。私は「鋸の歯」と言っていますが、そういう時にいったんゼロに落ちて、改めて新しい分野について学ばなくてはならなくなります。

しかしながら、リベラルアーツ的な知識は、学びの過程で、物事への本質的な理解が必須であるため、そこで得た気づきはその後、違う分野を学んだり考えたりする際にも、大変役に立ちます。リベラルアーツを学ぶことで、思考・分析のための「深み」と「引き出し」を、質量ともにグレードアップさせること、これが三番目の理由です。私はこの三番目が、大変重要だと思っています。

私が講座長を務める「リベラルアーツ六観講座」では、これらの理由を意識しながら学んでいただくことで、特に三番目の「深み」と「引き出し」について絶大な効果が期待できるものと思います。

プロフィール

高橋 俊介 氏
ビジネス・ブレークスルー「リベラルアーツ六観講座」講座長
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授

東京大学工学部航空工学科卒業、日本国有鉄道勤務後、プリンストン大学院工学部修士課程修了。マッキンゼーアンドカンパニーを経て、ワイアット社(現在Willis Towers Watson)に入社、1993年代表取締役社長に就任。その後独立し、ピープルファクターコンサルティング設立。2000年5月より2010年3月まで、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授、同大学SFC研究所キャリア・リソース・ラボラトリー(CRL)研究員。2011年11月より現職。
個人主導のキャリア開発や組織の人材育成の研究・コンサルティングに従事。

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