人材育成マガジン
【戦略人事虎の巻③】新規事業開発を担う人材の見つけ方
~社内の起業家イントラプレナー人材を育てる方法~
戦略的な人材育成=「戦略人事」のための虎の巻シリーズ第3回。今回は、経営人材の育成に携わり続けるビジネス・ブレークスルー大学学長大前研一による講義「21世紀の人材戦略」から、新しい事業を生む〝イノベーター(尖った人材)〟=アントレプレナー&イントラプレナーを発掘・育成する方法をご紹介します。
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本記事は、大前研一による人材戦略の解説講義録『BBT総合研究所レポート 21世紀の人材戦略』の一部を抜粋・再編集しました。今なら無料で講義録全文をダウンロードいただけます。
尖った人材=変わった人間こそが新しい秩序・変化を生み出す21世紀のイノベーター
21世紀に求められる〝3つの人材〟は「グローバル人材」「イノベーター(尖った人材)」「リーダー(経営者)」です。この中でも特に、変わった人間=21世紀のイノベーター、これを私は“スパイク”と呼んでいますが、こういう尖った人材こそが“個人の時代”である21世紀では最重要だと言えます(図-1)。
例えばイーロン・マスク氏。南アフリカ共和国の出身ですが、米国にたどり着いてペイパルの前身の会社の創業に携わって、その後テスラモーターズやスペースXを創業しています。本当かどうか諸説ありますが、グーグルの共同創業者ラリー・ペイジ氏は、自分の財産は息子にやらずにイーロン・マスク氏に譲ると言っています。世の中の秩序を壊して新しい世の中をつくってくれるのは息子よりもこの男なのだ、と。
それから、ジャック・ドーシー氏。この人はツイッターの創業者の1人ですが、その後スマートフォンをクレジットカード決済端末にするスクエアというサービスを始めて、その会社を上場して、またツイッターに戻ってきています。人柄にはいわくつきの人物ですが、間違いなく突出した逸材です。
ジェフ・ベゾス氏はおなじみアマゾンの創業者です。米国出身で、ウォールストリートの金融機関に勤務後、退職してシアトルに移住してネットで本屋を開きました。それが今や巨大なイーコマースの百貨店になっているのはご存知の通りです。
おまけにアマゾンは今、世界最大のクラウドコンピューティング会社でもあります。アマゾンウェブサービス(AWS)として部門を分けましたが、これが非常に儲かっています。アマゾンの時価総額は現在とても高いものとなっていますが、この業績があるためです。
ブルーオリジンという民間の宇宙開発企業も成功させています。さらには、米紙ワシントン・ポストを買収して、経営を立て直してしまいました。これだけのことを1人でやってのけるわけです。0から1の発想ができている人は、0から1をいろいろなところでトライするのです。
外部調達か? 内部育成か? アントレプレナー(起業家)人材を自社に取り込む人事戦略
日本企業のこれからの人材戦略を考える時、先に述べたイノベーター(尖った人材)、すなわちアントレプレナー(起業家)人材を自社に取り込んでいくことは、新規事業開発などにおいて非常に重要です。ですが、実際にアントレプレナー人材を自社に取り込むことは可能なのでしょうか? もし可能だとしたら一体どんな方法があるのでしょうか。そこで、アントレプレナー人材を自社に取り込む方法を、大まかにまとめてみました(図-2)。
アントレプレナー人材を自社に取り込む方法としては、大別すると「外部から調達」するか「内部で育成」するか、の2つがあります。外部から調達する場合、「アクセラレータープログラム」を活用するという方法もひとつです。アクセラレーター(加速装置)とは、スタートアップに対する支援育成の仕組みです。その中で有名なのは、シリコンバレーの「Yコンビネーター」で、2005年からの10年間で1,000社以上のスタートアップを輩出してきました。
Yコンビネーターのようなところは日本にもいくつかありますが、そういったイベントを見ていると、やはりグリーやfreeeといった企業は創業3カ月くらいで発見されています。我々のところでもアタッカーズ・ビジネススクールという起業家養成スクールをやっていますし、見つける方法は非常に少ないですが、あることはあります。
いずれにせよ、そういうところに人を派遣して、いつもプレゼンテーションを聞いておくようにするなど、常に新しい情報を入れることが大切です。外部調達の場合、M&Aというのも有効な手段です。いい人がいれば、M&Aで会社ごと取り込んでしまうのです。
一方、アントレプレナー人材を内部育成する場合は、「社内ハッカソン」や「社内事業プランコンテスト」などをやって、社員をトレーニングしていく。期間限定でダイバーシティに取り組むチームを結成して、適任者にリーダーをやってもらう「ダイバーシティプロジェクト」を立ち上げてみるなどは格好の機会になるでしょう。また、実習に高校生を呼ぶなどして若年層(デジタルネイティブ世代)を取り込むというようなことが必要かと思います。
イントラプレナー(社内起業家)の発掘と育成には、まず「下地(苗床)」作りを
もう1つ、アントレプレナー人材の発掘・育成と同時に、日本企業の人材戦略として「社内起業家(イントラプレナー)」を生み出す経営が求められています。
イントラプレナー人材とは、企業内において新規ビジネスを立ち上げる責務を負うことができる起業家精神を持った人材であり、大企業が社内の革新力を高めるためにも重要な人材です。これまでの「成功の方程式」が全く通用しなくなり、今やビジネスパーソンの誰もが会社の中で新しい事業を立ち上げるイントラプレナー(社内起業家)になることが求められる時代になったのです。
しかし日本企業にはなかなかイントラプレナーが生まれません。日本企業にイントラプレナー人材が生まれないのは、そこに2つの原因があるからです。それは、①リスクを避ける傾向の人材を採用し(学歴偏重主義の弊害)、②今まで新しい事業を生み出すための仕掛けづくりに本格的に取り組んでこなかったということです。
では日本企業の経営者・人事担当者はイントラプレナー人材を発掘・育成するために何をすればいいのでしょうか?
イントラプレナー人材を生み出すには、そのための仕組み、仕掛けが重要です。
まず企業内でイントラプレナーが生まれるための下地を作ってから、人材を発掘・育成して、その後に実践の場を提供していく必要があるのです。イントラプレナー人材を生み出すために企業が取り組むべきステップを図‐3に示しました。
1.まずはできそうなことから始めてみる
まずは「できそうなこと」からやってみる。つまりスモールスタートです。イントラプレナー人材の育成と、イントラプレナー人材を活かした経営において重要なポイントが、このスモールスタートです。革新的なイノベーションからではなくできることから少しずつ取り組んで、会社の仕掛けを変えていくということです。
2.専任組織設定・制度設計/3.事業化・実践支援
次に「専任の組織設定」「制度設計」をスタートさせるなどして、イントラプレナー人材を受け入れる下地作り(苗床作り)をする。それからイントラプレナー予備軍の発掘・育成を行なうわけですが、イントラプレナー人材を発掘したら、「事業化」と「実践支援」を行ないます。つまり、1つ2つの事業を立ち上げて、上手くいったらそれを伸ばしながら数を増やしていき、上手くいかなかったら修正する、ということを繰り返していくのです。
4.継続的な事業化実践/5.収益化
その後、イントラプレナー人材が活躍・成長するステップに入り、「継続的な事業化実践」と「事業の成長支援」を行なう。そして最後に「本体への収益貢献」や「本体の事業講構造変革」が生み出される、という流れです。日本企業は経営戦略と人事戦略を整合させつつ、このようなステップを踏んで、まずはイントラプレナー人材が活躍できる組織を作っていくことが急務と言えます。
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本記事は、大前研一による人材戦略の解説講義録『BBT総合研究所レポート 21世紀の人材戦略』の一部を抜粋・再編集しました。今なら無料で講義録全文をダウンロードいただけます。
『BBT総合研究所レポート 21世紀の人材戦略』は、大前研一が経営者に向けて開催している定例勉強会での講義内容を基に、日本企業の人材戦略・雇用制度の具体的な問題点や取り組むべき課題、これからの組織人事制度の考え方まで、具体的な事例とともにまとめたものです。
経営課題として、ますます重要度が増していく「人材確保・育成」。それに伴い人事部へのプレッシャーも高まるなか、人材戦略の「これから」を考える一助になれば幸いです。
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- イノベーターをいかに採用・育成するか?
- 経営者人材をいかに採用するか?
- 日本企業の人材戦略・雇用制度の何が問題なのか?
- 21世紀の人材戦略を進めるために取り組むべき課題とは?
- 人材過不足会議の設置と運用
- 新しい時代に対応した組織人事制度の考え方 他
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大前研一が示す 21世紀の人材戦略
大前研一による日本企業の人材戦略・雇用制度の具体的な問題点や取り組むべき課題、これからの組織人事制度の考え方まで、客観的資料や具体的な事例をご覧ください。
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