人材育成マガジン
【戦略人事虎の巻②】いい人材を集めろ、の前に。会社のこれからを見据えた人材スキルマップづくり
~10年後の会社を描くための採用・育成計画の作り方~
戦略的な人材育成=「戦略人事」のための虎の巻シリーズ。第2回は、経営人材の育成に携わり続けるビジネス・ブレークスルー大学学長大前研一による講義「21世紀の人材戦略」から、経営と人材戦略をマッチングして成果を出すための「社長の仕事・人事部の仕事」を解説します。
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本記事は、大前研一による人材戦略の解説講義録『BBT総合研究所レポート 21世紀の人材戦略』の一部を抜粋・再編集しました。今なら無料で講義録全文をダウンロードいただけます。
経営戦略と人材戦略とをマッチングさせるのが社長の仕事
21世紀の企業は、自社に必要な人材のスペックを作り、それに適合する人材を国内のみならず世界中から集めてこなければ駄目です。そのためには経営戦略と人材戦略を整合させることが重要になってきます。そこで、まずは経営戦略と人材戦略をどう整合させるのかを見ていきましょう。この2つは従来合わせる必要がありませんでしたが、ここにきてマッチングの必要が出てきたと私は思います。
自分の会社にどんな人材が必要なのかを考える。そしてそれに適合する人材を世界中から集めてくる。前段の仕事は社長がやります。自分がどういうふうにしてどういう仕事をしたいのかを考えて、これぐらいの能力を持った人間がこれぐらい欲しいと立案する。こういうことを考えるのは人事部ではなくて、社長の仕事です。
社長がまずこれを考えた上で、そこからトップダウンで人事部が採用の仕事をすることになりますが、日本の場合、ここでまた突き当たるのが、私が常々ナンセンスだと言っている“一括採用の壁”です。経団連(日本経済団体連合会)は選考解禁を6月にしろと言い、大学側は8月解禁のままにしてくれと言って結局受け入れる、こんな不毛なやりとりを30年も繰り返していますが、本当になんの意味もありません。
一括採用などというものでいい人が採れるなんてことはありませんし、仮にいい人を採ったとしてもその人が会社で中核的な仕事をするまでに、日本企業の場合は20年以上かかります。自社のスペックに合った人を1人ずつ採っていく、役員が分担してそういう人を見つける、そういうやり方をしないといけないのです。
いずれにしても、今までの日本のやり方では、仮に今年採った300人の中にすごい人がいたとしてもそれを見つけるのに時間がかかりますし、その人に活躍の場を与えるのも遅れます。個人が活躍するのが21世紀です。尖ったすごい人が前に出るようなシステムをつくらなければなりません。
「人材データベース」は目的に沿った形で構築できているか?
日本企業の人材戦略と雇用制度には様々な問題点や課題、考えるべき論点があります。主な論点としては、「新卒採用か中途採用か?」「正社員か契約社員か?」「ダイバーシティにどう取り組むか?」「従業員の副業は是か非か?」などが挙げられますが、その中の1つに「人材データベース」に関する課題があります。つまり、日本企業は人材の採用・評価に関するノウハウのデータベース化や教育を人事部に任せきりにしていないか? ということです。日本企業はGE(ゼネラル・エレクトリック)など世界一流企業の人材採用・人事ファイルの仕組みを学ぶべきでしょう。
私はいろいろな会社の人事ファイルを見せてもらっていますが、ほとんどはキャリアパスを書いてあるだけのようなものにとどまっています。どういう仕事のやり方をしたのか、どういう困難にどういうやり方で立ち向かったのか、その結果はどうだったのか、部下の指導はどうだったのか。そういうものが基本的には書かれていない。こういうものが詳細に記されてこそ初めて有用な人事情報だといえます。
人物評があるとしても、○だの×だの、よくわからない採点基準で4とか3とか書いてあるだけで、あとで読んでもわかりません。これもまた記述式で時間をかけてやることが必要です。GEの前最高経営責任者(CEO)ジェフリー・イメルト氏は将来のリーダー候補生との“面談”に多くの時間を割り当てていましたが、彼のように、トップの時間の10%以上はこういうことに使うべきです。
ソニーも創業期は盛田昭夫さんや、スカウトされた大賀典雄さんも含めて、1人ずつインタビューをしてよそから引き抜きをしていきました。大賀さんなどは酒も飲めないのに、気に入った人を赤ちょうちんの屋台に誘って引き抜きの説得をする。「私、飲み屋で大賀さんに引っ張られたんですよ」という人がたくさんいて、みんなそれぞれ「マイ大賀ストーリー」あるいは「マイ盛田ストーリー」という入社のエピソードを持っているわけです。
やはりスカウトはトップ、またはトップに近い人がやるのでないと難しい。そういう人たちが直接情熱をもって説得するからこそ、入社してからもうまくいくのです。
会社のトップの一人として最近つくづく思うことは「自分の他にあと1人本当に信用できる人物がいたら、会社はなんとかなる」ということです。そういう人がいれば、自分が社長になった時に非常に役に立つし助かります。みんなが役に立つというのも困るし、誰も役に立たないというのも困りますが、何人かは際立って役に立つという人がどうしても必要になってきます。それはいわば “最重要の経営資源”です。これに関するデータベースを、トップがコミットしてつくり上げなければなりません。
10年後の会社を見据えた人材スキルマップを描く「人材過不足会議」の設置と運用
日本企業の人材戦略・雇用制度の問題点、課題が少しずつ見えてきたと思います。では私たちは21世紀の人材戦略において具体的にどんな施策を実行していけばいいのでしょうか?
私が提示するのは、人材過不足会議(SGC: Skill Gap Conference)というものを設置して定例化するのがよいのでは、という案です。
まずは5年10年先の会社の姿を思い描いて定性的に示してみる。うちの会社はこういうところでこんな操業をしていたい、こんな事業をしていたいということを口に出して言ってみてください。
次は、少し定量化してみて、必要な人材の数を具体的に描き出すようにする。そういう事業をやれる人間がいるのか、やるとしたら何人くらい必要になってくるのか。こういう事業をやる場合は、そういう分野のスキルを持った人間がいるのか、やるとしたらどれくらいの人数が必要なのか。
こんなふうに、最初は定性的に、それを今度は定量化していく。そうするとその後は、現状とのギャップを埋める方法を役員なりトップなりが分担して考えることになります。
つまり採用計画の立案です。こういう人を見つけてくれ、こういう人をスカウトしてくれ、半年後までにめどを報告してくれ、というプロセスになってきます。
つまり、人事部に「来年は○○ができる人材を20人採ってこい」と大雑把に指示するのではなくて、もっとアッパーレベルで詳細な採用計画をつくり上げる必要があるということです。自分の会社はこういうことをやりたいと言いながら、今いる人間だけでそれをやろうとする。そういう無理を日本企業はずっと続けてきました。そこから卒業するためにも、こうした会議を定例化していってはどうかと思います。
オペレーションによっては国籍や言語が違う人たちまでをも視野に入れた採用計画になります。これを半年に1回レビューしながらやっていく。そこまでやらずとも、定性的な見直しを続けていくだけで、人材に対する社の意識がずいぶんと違ってくるはずです。
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本記事は、大前研一による人材戦略の解説講義録『BBT総合研究所レポート 21世紀の人材戦略』の一部を抜粋・再編集しました。今なら無料で講義録全文をダウンロードいただけます。
BBT総合研究所レポート 21世紀の人材戦略』は、大前研一が経営者に向けて開催している定例勉強会での講義内容を基に、日本企業の人材戦略・雇用制度の具体的な問題点や取り組むべき課題、これからの組織人事制度の考え方まで、具体的な事例とともにまとめたものです。
経営課題として、ますます重要度が増していく「人材確保・育成」。それに伴い人事部へのプレッシャーも高まるなか、人材戦略の「これから」を考える一助になれば幸いです。
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大前研一が示す 21世紀の人材戦略
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