人材育成マガジン
【戦略人事・虎の巻①】次世代経営人材の見つけ方・育て方
~グローバル企業のリーダー育成の仕掛けは何が違うのか~
略的な人材育成を通して経営に大きく貢献する「戦略人事」のための虎の巻シリーズ。第1回は、経営人材の育成に携わり続けるビジネス・ブレークスルー大学学長大前研一による人材戦略講義「21世紀の人材戦略」から、次世代リーダーをグローバル企業はいかに選出・育成しているのかをご紹介します。
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本記事は、大前研一による人材戦略の解説講義録『BBT総合研究所レポート 21世紀の人材戦略』の一部を抜粋・再編集しました。今なら無料で講義録全文をダウンロードいただけます。
「採用」から「グローバル人事」まで。欧米企業の人材育成の“仕掛け”は何が違うのか
欧米グローバル企業は、日本と異なり経営者人材を育成する仕掛けが整っています。まずは、日本企業と欧米企業とで、雇用慣行がどのように違うのかを細部についてひとつ一つ見ていきましょう。そこから日本企業の人材戦略における弱点が透けて見えてくるはずです。
まず「採用」についてです。欧米の会社と比べると、新卒一括採用、人事部が担当というのが日本の特徴で、こういう国は少ないです。欧米の場合、普通は欠員や増員が出た時に、特定職務に対して募集をして面接をして採る。年俸も1人ずつ違う。その職に対してその都度契約で採りますから、その職がなくなればその人は辞めるということです。
次に「人事管理」について。日本の場合、「総合職」として採用した人たちは、職務が限定されず配置転換を繰り返していきます。そのうちに、「神と同じくらい仕事ができるようになれ」という期待を持たれつつ、あっちの部署へこっちの部署へと動かされていく。結果、何もかも中途半端になってしまうのです。
欧米では同一職務に継続して就く。そこでものすごい業績を上げると、10万人くらいの会社だと2,000人くらいを特別枠で引き上げて、その中でさらにいろいろな試練をくぐった200人くらいを選ぶ。そして最終的には5人くらいをCEO後継候補にしていく。こういうパターンです。
「グローバル人事」について見てみると、欧米ではどの国で採用されても社長までの距離は同じですが、日本の場合、日本の本社と海外現地法人とでは人事がはっきり区分されていて、現地採用の人たちが本社の出世街道に上がることはありません。
一方、欧米企業では、前述のように最終的に“世界的な活躍をしてもらいたい人”を1つの枠の中に入れて、特別にキャリアパスを組んであげる。これが出世の道です。
日本の企業においてはこうした選出が少ないので、最後まで誰がトップに立つかわからないというような状況の中で、みんなが一定の努力をするのかもしれません。しかし、一方で選ばれなかった人の活躍の場所がないという問題もあります。これが最近の日本企業のトラブルの原因でもあるので、企業は戦略的に手を打たなければなりません。
“何でもできる神様”総合職は長時間勤務。欧米は賃金のマネジメントが違う
次に「労働時間」についてです。総合職は“何でもできる神様”になるためのポジションですから、結局勤務時間が長くなってしまいます。一方で職務に対して雇われた人は、その職務が終わると帰っていいのです。
欧米の場合、エリート、つまり将来出世するような人は、だいたい朝4時に起きて、6時に会社に来ているというタイプの人が多いです。それで、定時に退勤して家族と食事をする。退勤後に友達と1杯やるとしても30分くらいでサクッと飲んで早々と帰る。こういう生活パターンです。日本の場合は、朝ぎりぎりに出社して、夜は遅くまでだらだら会社にいるということが多くはないでしょうか。
「賃金」の形態・マネジメントについても欧米と日本とでは大きな違いがあります。日本の場合は配置転換で職務が変わっていっても、なるべく賃金が変わらないようにするという配慮があります。当然のことながら欧米の場合は職務ごとに採用していますから、この職務がなくなれば当然雇い止めということになりますし、うんといい仕事をしていれば会社側が慰留して別の働き口を見つけてあげるということもあります。
また欧米の場合、他社に行っても同じ職務であれば賃金体系は同じです。給与システムをビッグデータで管理しているヘイ・グループという会社がありますが、この業種のこのような仕事で、部下が何人いて、こういう状況にあって、ということを総合的に判断して、適正賃金を算出してくれます。
こうしたほぼ均一の賃金体系の中でトントントンと出世した人がいると、今度はヘッドハンターが特別にその人を誘いにきます。そこから先はまた違った賃金体系の契約を結ぶことになります。
トップ自ら時間をかけて話し、次世代リーダーを選ぶ欧米企業の育成プロセス
21世紀に求められる“3つの人材”は、「グローバル人材」「イノベーター(尖った人材)」「リーダー(経営者)」です。グローバル人材を取り込む、尖った人材でイノベーションを起こす、トップに立てる人を社内外に求める。トップはナンバー2や後継者も育てなければなりませんから、方向性をちゃんと示してそれに沿ったリーダーを選んでいくことが必要です。やはりトップはそうした人材育成のために相当な時間を使わないと駄目ですが、これはそう簡単にできることではありません。
ゼネラル・エレクトリック(GE)の前最高経営責任者(CEO)ジェフリー・イメルト氏の場合、米国にいる限りは毎週金曜日に選ばれた200人の将来のリーダー候補生と1対1で食事をしていました。その都度いろいろな話をして、リーダー候補生1人1人のことを自分の頭のデータベースに蓄積していったのです。
イメルト氏の頭の中では「こいつは特に立て直しに強そうだ」とか「新しいことをやらせるのによさそうだ」、「今トラブルのあるアルゼンチンに次の配転でこいつをやろう」といった、リーダー候補生の適正評価と起用が行われていくわけです。
こうした作業を毎週金曜日に200人分やっていく。一巡するのにも時間がかかりますが、そうした中から最後に5人くらいにリーダー候補を絞り込み、その5人をさらに絞っていく。こういうプロセスで将来のリーダーが選ばれていったのです。
日米で明暗が分かれる“トップ争いの敗者復活”
ここで、GEと日本の電気メーカーのトップ争いの違いを比較してみましょう。
GEでは、全世界で2,000人くらいがクロトンビル(GEが開設した世界初の企業内ビジネススクール)の企業内研修で勉強させられて、よさそうな人材、業績を上げた者が上に行って200人くらいに絞り込まれます。
ジェフリー・イメルト氏自身もこれで元CEOのジャック・ウェルチ氏の後継者に選ばれたわけですが、選ばれなかった最後の5人を見るとジェームズ・マックナーニ氏がいます。彼はその後スリーエムのチーフエグゼクティブになって、さらにその後ボーイングの会長にもなりました。こういうところが米国の企業のおもしろいところです。
GEのトップ競争に敗れたような人は、他社から見れば人材としては超優秀で超お買い得ということになります。40代からローテーションで社内のさまざまな部門を経験し、複数の国を経験し、複数の事業を経験して、ビジネスの守備範囲も広い。こういう存在が他社に迎え入れられて活躍することができる。日本企業ではまず見ることができない事例です。
一方、日本の大手電機メーカーは、日本電気(NEC)も富士通も東芝もシャープも、“上”が喧嘩ばかりしています。日本の大手電機メーカーは、各部門が“タコツボ”になっているのが問題です。自分のタコツボで育って、ずーっとタコツボに入ったまま上に行くのです。
その中で本部長くらいになって、さらに上に行くと、一番業績のよい部門のトップが次期社長、こういう具合です。
こうして社長になった人は、他の部門の事業は駄目だと見なす傾向にあります。全社の他のところを見下して、人事においても業績のよかった時の部下を自分のところに引っ張ってきます。これでは喧嘩になるのは当たり前です。
日本では「どこそこの企業で誰それが何人抜きで社長に就任した」、といった話は耳にしますが、選ばれなかった人たちにスカウトが殺到したという話は聞いたことがありません。ここに日本の問題があるわけです。タコツボに入ったきりよそに行かないくせに、入社時には “総合職”でなんにでもなれると思っている。これが喧嘩を引き起こすメンタリティの所以です。
GEのように40代から、これはという優れた人材をあちこちの部署に回していく。するとGEのことが全部分かるようになる。これからは日本企業もこういう仕組み、仕掛けを取り入れていかなければいけません。
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本記事は、大前研一による人材戦略の解説講義録『BBT総合研究所レポート 21世紀の人材戦略』の一部を抜粋・再編集しました。今なら無料で講義録全文をダウンロードいただけます。
BBT総合研究所レポート 21世紀の人材戦略』は、大前研一が経営者に向けて開催している定例勉強会での講義内容を基に、日本企業の人材戦略・雇用制度の具体的な問題点や取り組むべき課題、これからの組織人事制度の考え方まで、具体的な事例とともにまとめたものです。
経営課題として、ますます重要度が増していく「人材確保・育成」。それに伴い人事部へのプレッシャーも高まるなか、人材戦略の「これから」を考える一助になれば幸いです。
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- 人材を自前で揃える必要のない時代に人をどう採りどう育てるか
- 何もできない「総合職」より本当に信用できる 1 人を
- 日本の採用制度の問題を整理する
- 21世紀の企業を取り巻く環境と経営課題
- 欧米グローバル企業は経営者人材を育成する仕掛けが整っている
- 21世紀のボーダレス経済の中で企業がとるべき人材戦略とは
- リーダー選び、トップの育て方─米国とインド
- イノベーターをいかに採用・育成するか?
- 経営者人材をいかに採用するか?
- 日本企業の人材戦略・雇用制度の何が問題なのか?
- 21世紀の人材戦略を進めるために取り組むべき課題とは?
- 人材過不足会議の設置と運用
- 新しい時代に対応した組織人事制度の考え方 他
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