人材育成マガジン
20代から始める学び直し時代に淘汰されない“稼ぐ力”を身につける「リカレント教育」
~人生100年時代に備える「リカレント教育」のあるべき姿
今、社会人の学び直し=「リカレント教育」に注目が集まっています。リカレント教育の意義については様々な捉え方がありますが、政府が提唱しているリカレント教育施策は、定年退職後の再就職や失業対策が主眼となっています。しかしBBTが提言している「リカレント教育」の意義は異なります。BBTでは、リカレント教育を「劇的な経済の変化に対応し、時代に淘汰されない力をつけるための、若年からの継続的な学び」であり「企業にとって重要な人材戦略」と考えています。今回は、BBT大学学長 大前研一による講義『世界のリカレント教育の動向と日本への提言~人生100年時代に備える「リカレント教育」のあるべき姿とは?~(2018年11月開催)』から、今、本当に必要とされているリカレント教育とは何か? をご紹介します。
人生は「単線型」から、学び直しを必要とする「マルチステージ型」へ
これまで多くの日本人は、「学校で勉強して、就職して仕事をし、ある程度の年齢に達すると退職。その後はリタイア生活を送る」という人生を送ってきました。つまり、皆同じようにエスカレーターに乗って年功序列で自動的に上がっていって、最後はリタイアして上がり、というワンパターン=「単線型」の人生です。昔はそれでよかったのです。
しかし、人生100年時代の到来、またテクノロジーの発達による社会・経済・ビジネス環境の変化などに伴い、多くの人の生き方・働き方は「単線型」から「マルチステージ型」にシフトしつつあります。マルチステージ型とは、一人ひとりが違うパターンの生き方・働き方をするということです。
このようなマルチステージ型の人生では、学びを繰り返しながら組織に雇われて働くという選択肢もありますし、雇われない生き方を模索・開拓するのも良いでしょう。いずれにせよこれからは、どういう人生を生きるのかを自分自身で考えて、それに向いた勉強を繰り返す。つまり、常に自律的に学び続けることが必要なのです。
従来の単線型の人生では、仕事上での学びや勉強は、「教わる(教える)という受動的かつ一方的」なものでした。しかし、これからのマルチステージ型人生においては、「自律的に学ぶ(分かち合う)という、能動的で双方向的な関係」が重要となってきます。
激しく変転し続ける時代の中で、自ら積極的に学び、学ぶ者同士で相互に刺激しあい、自己の知識とスキルをアップデートしていかないと変化についていけないだけでなく、時代に淘汰されない「稼ぐ力」を身につけることもできません。
「リカレント教育」とは、企業がデジタル・ディスラプション時代に生き残るための人材戦略である
一方、「リカレント教育」を企業側の人材戦略という視点で見ると、21世紀型経営のための人材戦略、21世紀を勝ち抜く人材教育の軸となるのが「リカレント教育」だと言えます。なぜなら、21世紀はデジタル化による破壊的変革が、ほぼすべての業界で進行する「デジタル・ディスラプション」の時代だからです。
このデジタル・ディスラプションに対応するには、すべての産業で、また各企業で「リカレント教育」が必要となります。常に「学び直し」をしなければ、どの分野のビジネスパーソンも経営者も、劇的な経済・ビジネスの変化についていくことができないからです。
デジタル・ディスラプション時代に「リカレント教育」が必要とされる理由は産業ごとに異なります。ここで、デジタル・ディスラプションによる影響を各産業別に見てみましょう。
まず「自動車」業界ですが、ここでは「CASE」と「MaaS」という2つのキーワードを軸とする大きな変革が起こっています。「CASE」とはすなわち、コネクティビティ(接続性)の「C」、オートノマス(自動運転)の「A」、シェアード(共有)の「S」、そしてエレクトリック(電動化)の「E」です。「MaaS」は、Mobility as a Serviceの略で、車を所有せずに使いたい時だけお金を払って利用するサービスのことです。この「CASE」と「MaaS」によって、これまでの自動車は一部品となり、雇用激減に拍車がかかるでしょう。自動車業界のデジタル・ディスラプションを先導するのはUberやLyftなどのライドシェアサービスを展開している企業です。
「銀行」業界では、FinTechやキャッシュレス決済が進み、AI与信やAI運用ブロックチェーン等により銀行が不要になる、というデジタル・ディスラプションが起こりつつあります。この業界では、AlipayやWechatPayなどがデジタル・ディスラプションを先導するサービスです。
「小売、流通」業界においては、EC、無人店舗化、C2C(Consumer to Consumer)、シェアリングエコノミーなどにより小売りの存在意義が変わりつつあります。代表的な企業はアマゾン、アリババ、メルカリなどです。
「メディア、テレビ」業界では、NetFlix、hulu、Spotifyなどの企業・サービスが、動画・映像、音楽コンテンツのサブスクリプション配信化を推し進めており、放送・レンタル会社が不要になる日も近いでしょう。
「ホテル、旅館」業界は、Airbnbなどの空き部屋シェアサービスが低価格の宿泊設備を大量に市場に供給し、固定設備を抱える既存業界が苦戦。また「人材紹介・派遣」業界では、UpWorkやCrowdWorks、LinkedInなどのサービス事業者が、自前人材を抱えている既存企業をディスラプトしつつあります。
漕ぎ手ではなく、自社の舵をとることができる経営人材の育成が急務
このように、今世界中でボーダレス経済とサイバー経済が拡大しています。21世紀は、従来事業の延長上では、社員一丸となって頑張ってもディスラプトされてしまう時代です。今後AIが、人が行っている仕事の50%を代替するであろうと言われる時代にあって、「自社が育成するべき人材像とはどのようなものか」を明確にし、「自分たちが向かう方向を見極める」ことが企業の人材戦略にとって最重要課題です。
したがってこれからの時代は、政府が言うように、40代になったから学び直し(再教育)をしよう、50代になったから将来のためにもう一度学び直そう、勉強しようではダメです。21世紀は、20代の頃から最低でも10年に1度は抜本的な学び直し(人材教育)をする必要があるのです。
企業はもはや従来の年功序列型人材教育では、21世紀のビジネスに対応できません。そこでは、従来の仕事の仕方を学ぶだけであり、新しい時代の経営を学ぶ機会がほとんどないからです。
これからの経営者・人事担当者には、20代・30代・40代・50代、と各年代別に学ばせるべきスキルとマインドとは何か? をしっかりと理解し、21世紀型ビジネスに応じた最新の教育で計画的に再教育することが求められています。
単なる会社という舟の漕ぎ手ではなく、「未来の自社の舵をとることができる経営人材の育成」が、これからの経営者・人事担当者の急務と言えるでしょう。
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